. 心理言語学ラボ
#Psycholinguistics #Cognitive Neuroscience of Language

研究テーマ

心理言語学は、言語の産出・理解・獲得・習得・障害を研究する言語学の一分野です。 東京都立大学・心理言語学ラボでは、とくに母語話者や第二言語話者が無意識または意識的に持つ言語知識や言語を理解・産出する仕組みに関する研究を行っています。 理論言語学・心理言語学・神経科学に関わりのあるテーマを扱っているので、それらの接点に関心のある学生を積極的に受け入れています。

学生の募集

東京都立大学・心理言語学ラボでは、学部生・大学院生(修士・博士)の募集を行っています。 学振PDの受入も可能で、採用実績もあります。 入試情報は、東京都立大学のページを参照してください(学部入試大学院入試)。

  • 学部生:東京都立大学 人文社会学部 人間社会学科 言語科学教室
  • 大学院生:東京都立大学 人文科学研究科 人間科学専攻 言語科学分野 言語科学教室
  • 心理言語学ラボがある言語科学教室は、理論的研究(音韻論・統語論・意味論)と実験的研究(心理言語学・神経言語学・言語発達脳科学・言語精神科学)を専門とする教員が在籍しており、緊密に連携をとりつつ様々な共同研究を活発に行っています。 国内で理論的アプローチと実験的アプローチの両方を同時に学べる講座が極めて少ない現状を考えると、ユニークな教育・研究環境だと思います。

    学部生(大学生)で心理言語学ラボへの所属を希望するひとは、まず東京都立大学の人文社会学部人間社会学科に入学します。1年次の後期に教室希望調査がありますので、そこで「言語科学教室」を希望します。 毎年定員が変わりますが、多くて10名以下で、GPA(Grade Point Average:成績評価のこと)順に配属が決まります。 3年生の夏休み中に教員に相談し、10月初旬に許可を得て「卒業論文登録申請書」を提出します。 受け入れの条件として以下の項目を設定しています。

  • 心理言語学(言語処理・言語習得)・実験言語学(実験統語論・実験意味論・実験統語論)に関するものであること(研究テーマを参照)
  • 「心理言語学」「言語情報処理の統計学」「言語科学特殊講義」を履修済みであること(担当講義・演習を参照)
  • 基礎的な統計方法・プログラミングのスキルを身に着けていること
  • 英語の文献が読めること、または読む意欲があること
  • 登録申請書の提出段階で具体的な研究内容を決めるのは難しいと思うので、気軽に相談して下さい。その際、興味のある大まかなテーマ・キーワードを見つけておくと相談しやすいと思います。 卒論ではなるべくシンプルな実験デザイン・解析で面白い実験をすること(小難しい解析をして何となくすごそうな研究に見せようとしないこと)を方針にしています。

    大学院の進学希望者は、「人間科学専攻 言語科学分野」を希望して9月(前期)入試または2月(後期)入試を受験することになります。 とくに外部から受験するひとは、遅くとも入試の1ヶ月前までに研究計画書を添付してメールで連絡をとり、研究計画について相談するようにして下さい。 受け入れの条件としては、上記の学部生向けのものに加えて、「英語で論文を書く/発表するスキル」が必要になります。 様々なバックグラウンドを持つ学生を受け入れたいと考えているので、学部で心理言語学を専攻していた学生だけでなく、 学部で理論言語学を専攻していて、大学院で心理言語学を始めようと考えている学生などもを受け入れることも可能です (ただし実験設備や指導可能な時間など様々なリソースが限られているので、無制限に受け入れることはできません)。

    言語科学教室の研究設備

    言語科学教室では、様々な言語実験を行う環境が整っており、自由に使うことができます。言語科学教室の教員・スタッフ・学生と共有して使うことになります。

  • 脳波計 Brain Products 64ch / 32 ch & シールドルーム
  • 近赤外線分光脳計測装置 NIRS
  • 眼球運動計測装置 EyeLink 1000 Plus(デスクトップマウント & リモートマウント)
  • 眼球運動計測装置 Tobii Pro nano
  • その他、実験実施・解析に使用できるワークステーションなどがあります。
  • その他に、矢野が個人で所有してる装置は以下の通りです。

  • 脳波計 actiCHamp Plus 64ch System & TriggerBox Plus
  • 脳波計 QuickAmp & TriggerBox
  • 眼球運動計測装置 EyeLink 1000 Plus(デスクトップマウント & リモートマウント)
  • 経頭蓋直流・交流電気刺激装置 HD-tDCS/tACS
  • これまでに指導した卒業論文

  • 舩﨑夏海 (2023) 日本語の焦点はいつどのように特定されるのか―瞳孔径計測実験による検証―
  • 村上理咲 (2023) 日本語文の統語解析におけるimplicit prosodyの役割
  • 志村瑠莉 (2023) 日本語 NPI の錯覚的認可はいつどのように起こるのか―容認性調査と脳波計測を用いて―
  • 西本拓海 (2022) ユーモアの解釈に影響をもたらす個人的要因について [要旨]
  • 鈴木裕衣 (2017) 日本語の文理解における感情の影響―事象関連電位を指標として― [link][link] [要旨]
  • Minemi, Itsuki (2016) Processing of filler-gap dependencies by Japanese learners of English [link][link] [要旨]
  • Tsumura, Saki (2016) Processing of temporarily ambiguous sentences by Japanese learners of English [link] [要旨]
  • 荒木琴子 (2015) 形容詞-名詞間の連体関係における距離の効果について―事象関連電位を指標として― [要旨]
  • 草場鈴恵 (2014) 再分析処理における構造の選好性について[link] [要旨]
  • 河野翔子(2013)英語母語話者におけるfiller-gap依存関係の構築ー日本語母語話者との比較検討を通してー [要旨]
  • 桑原行人(2013)日本語三項動詞文の理解過程についてー右方転移文を用いた検討ー [要旨]
  • 徳永奈美(2013)日本語における左側節境界の設定についてー時の副詞の呼応関係を中心にー [要旨]
  • 矢野舞子(2013)日本語におけるgap-filler依存関係の構築ーERPを用いた焦点化分裂文の研究ー [要旨]
  • 石川優衣(2012)三項動詞文の基本語順についてー動詞情報からの検討ー [要旨]
  • 村山博美(2012)子どもの比喩表現の獲得についてー情動と身体運動感覚を用いた研究ー [要旨]
  • 立山憂(2012)譲歩文の理解過程について―事象関連電位を指標として― [要旨]
  • 下田美超(2012)照応表現「そうする」の理解過程について―ERPを指標として― [link] [要旨]
  • 見月香織(2012)隠喩文の理解過程についてー意味活性の時間的変化ー [要旨]
  • * 学部生でも希望があれば、学会発表や雑誌論文執筆の指導も行います。卒業研究で日本言語学会大会発表賞を受賞した学生や、国際雑誌に論文が掲載された学生もいます。

    これまでに指導した修士論文

  • Kim, Yoan (2015) Processing of pre-nominal relative clauses in Korean [link]
  • 立山憂 (2014) 文理解における依存関係の構築過程について[link]
  • 担当講義・演習

    *どの講義・演習も言語科学教室以外に所属する学生も受講可能です。

  • 心理言語学(後期):言語理解や言語産出のメカニズムに関する講義です。様々なテーマの研究を広く紹介するというよりも、個々の研究で、仮説・予測・結果・解釈を細かく確認し、批判的に考察することを重視しています。 この講義で扱う研究は、反応時間を計測するようなシンプルなものですので、実験手法に関する前提知識は必要ありません。 ただし、統語論に関する基礎的な知識は必要ですので、「統語論基礎」または「統語論」も同時に履修することを推奨しています。言語科学教室の学生(2021年度以降入学者)は必修科目です。
  • 言語情報処理の統計学(前期):言語関連の実験で必要となる統計の基本的な考え方を学ぶ講義です。Rを用いて言語理解・産出実験で得られたデータに統計処理をする方法を学びます。高校レベルの数学(文系)の知識が前提となります。
  • 言語科学特殊講義(前期):脳波実験の実習(初歩)です。言語研究における脳波計測の(非)有用性を理解すること、脳波実験を適切に行うための知識の取得すること、MATLABを使用した脳波解析の技術の習得すること、 心理言語学に関する論文(英語)を理解できるようになることを目指します。
  • 言語科学特殊講義(後期):行動実験の実習。グループに分かれて行動実験を行います。言語理解や産出に関する論文(英語)を読み問題点を考えること、 自ら実験を考え、自己ペース読文課題・反応時間計測実験・眼球運動計測を実施すること、RやMATLABでデータ分析を行うことが求められます。「心理言語学」及び「言語情報処理の統計学」を受講していることが前提となります。
  • 言語情報処理研究・言語情報処理特論(前期・講義):大学院修士課程・博士課程の講義です。人間の言語機能を理解するためにはどのようなアプローチが可能なのか、 望ましいのか、言語の知識と処理の関係性をどのように捉えれば良いのかなどを議論しています。扱う文献は、言語関連のものに限らず、神経科学などもあります。
  • ことばの科学(前期・講義):言語科学教室の教員が数回ずつ担当するリレー式の講義です。ことばの仕組みについての理論的研究、行動研究、脳・神経科学的研究について学びます。主に1年生を対象とした講義なので、言語科学教室への所属を希望する学部生は受講したほうが良いです。
  • オフィスアワー(前期・後期):授業・研究・進路等に関しての相談(日時を確認。 オフィスアワー以外でも、随時、研究・論文指導を行っています。
  • 講義・演習ではないですが、毎年2月に研究会(通称、脳波祭り)を開催しています。
  • 倫理的な点に関して

  • 教室に所属すると実験研究を行うことになると思いますので、研究倫理を遵守する必要があります。(東京都立大学南大沢キャンパス研究指針(人文科学研究科)
  • <抜粋>
  • 研究者は、人間の尊厳を重んじ、基本的人権に配慮しなくてはならない。研究者は参加者の権利と福祉を保護する責任と、そして、これを保障するためにできる限りの措置を執る責任を認識し、その責任を負わなくてはならない
  • 研究者は、参加者の性・信条・年齢・学歴・地位・障害の有無・人種(レイス)、民族、その他にもとづく差別的な扱いや言動、ハラスメントを行ってはならない。
  • 障がい等の事由により合理的配慮が必要な学生は、矢野に相談して下さい(参考:東京都立大学ダイバーシティ推進室
  • 共同研究に関して

    (このセクションは進学希望者向けではなく、共同研究に興味のある研究者向けの内容です)
    共同研究のお話は積極的に歓迎しております。具体的な研究内容についてメールでお問い合わせください。言語科学教室の実験設備を借りて実験されたい場合は、以下の2点について事務作業が必要になります。

    1. ① 倫理申請:実験内容を倫理員会に提出して承認を受けます。通常、1-2ヶ月かかります。内容によっては私の研究プロジェクトに協力者として追加する方法が可能なこともあります。
    2. ② 実験室への入室許可の申請:客員研究員等になって頂き、申請資格を得るのが最も簡単な手続きになると思います。教授会で承認を得る必要があるため、1-2ヶ月かかります。

    ごく稀にですが、研究室のリソースを搾取しようとされる方がいらっしゃいます。以下の点に関してあらかじめご理解頂くよう、お願い申し上げます。

    1. ① 行動実験・脳機能計測実験では実験参加者に謝金を支払う。
    2. ② (補佐が必要であれば)行動実験・脳機能計測実験を補佐してくれる大学生・大学院生にアルバイト代を支払う。貢献度に応じてオーサーシップを検討する。
    3. ③ 計測に最低限必要な消耗品(例えば脳波計測のジェル代)を支払う。
    4. ④ 実験機材を丁寧に扱う(高額な実験装置がいくつかあります)。故意又は過失によって実験機材を故障させた場合は修理代を支払う。
    5. ⑤ 言語科学教室で所有する情報(スクリプトやマニュアルを含む)を許可なく公開しない。
    なお、コレスポンディングオーサー等の権利を提供することで①ー③の費用負担を私どもに肩代わりさせようとするご提案も受け付けておりません。よろしくお願い致します。

    FAQ

  • 他大学の院も同時に受験して良いか?:積極的に検討してください。 教員や院生から直接話を聞き、学費・指導方針/体制・旅費/実験謝礼などの支援・TA/RA・研究/実験環境・修士号/博士号の取得状況・就職状況などを比較検討した上で入学することをオススメします。
  • 雰囲気:国内のラボでよくあるような教員-指導学生の上下/師弟関係はないので、学生は自身の研究プロジェクトの研究代表者として、 私はその研究プロジェクトのアドバイザー役として、より対等な立場で研究を進めたいひとが向いていると思います。 自分の研究プロジェクトにしか関心がない学生よりも、心理言語学ラボのチームのメンバーとして学び合い、協力するできる学生を歓迎します。
  • コアタム:ないです。自分の好きな時間帯に来て研究して下さい。
  • TA・RA:あります。ただしバイト代はあまり多くないです。
  • 奨学金・研究助成:奨学金や研究助成に応募したいときは積極的に相談してください。博士後期課程で最も有名なものとしては日本学術振興会の特別研究員DCがあります。 その他にもありますので随時相談してください。
  • 働きながら大学院に通えるか?:標準修業年限内での修業が難しい場合は「人文科学研究科長期履修制度」を利用することが出来ます。
  • 博士後期課程には進学せず修士課程のみでも良いか?:問題ないです。院卒のひとが研究に直結しないような分野でももっと活躍していってほしいと思っています。
  • 大学院受験/大学院入学までに読んでおいたほうが良い本:
    ○ 言語処理関連: van Gompel (2013), Traxler (2023), Nakayama (2015), 郡司・坂本(1999), 大津・乾・岡田・坂本・西光(1998), 小野(2018)第6–11章, 中谷(2021)第4章, Sakamoto (2007), Nakayama (2001),
    ○ 脳波関連: 入戸野(2005), Luck (2014),
    ○ 理論言語学関連: 田窪・稲田・中島・外池・福井(1998), 北川・上山(2004), 杉崎・稲田・磯部(2022), 渡辺(2009), Radford (2020), Radford (2016),
    ○ 統計・実験: 竹内・水本(2023), ラクストン・コルグレイヴ(2019)
    ○ 科学的研究の方法論・論理学: 米盛(2007), 伊勢田(2003), 植原(2020), 野矢(2001), 野矢(2006), 野矢(1994), 野矢(2020),